幼女再び4

寮で共に生活しているといってもそれぞれのペースやスタイルがあるので全員そろって教室に着くということはそうない。は朝からとある人物を探していた。一緒に寝たので流れで朝ごはんも食べさせてくれた耳郎にその人物について聞いてみると恐らくすでに出たのだろうと言われたので着替えを済ませ、合流した麗日・緑谷と教室へ向かう。大きな扉を開けてもらい中を覗くと目的の人物は予想通り自身の席に座っており頬杖をついて外を眺めているようだった。



「かっちゃん!」
「あ?」



名を呼ばれた彼は窓から視線を外し少女の方を見る。が探していたのは爆豪だったのだ。昨日爆豪と仲良くなるシーンなどはなかったように思うのだがどうしたのだろう、と駆け寄っていく姿に教室にいる生徒数人が疑問を抱えていると緑谷が寝る前のちょっとした出来事を語る。風呂上がり、緑谷はの顔の赤さが気になっていたので爆豪からジュースを受け取った後体調について尋ねたのだ。そうしたら予想通りただオールマイトのタオルに興奮していただけではなく逆上せ気味だったようで、ジュースをもらったのは彼女にとってとても有難かったらしい。なので爆豪にお礼が言いたくて会えるのを心待ちにしていたのだ。



「かっちゃんジュースありがとうございました!」
「……おう」
「とってもおいしかったよ!」
「そーかよ」



素っ気ない態度の爆豪にも明るい笑顔で頭を下げる少女。どうやら彼女は爆豪を甚く気に入ったようでそれから授業が始まるまでずっと話しかけていた。その内キレるのではと緑谷筆頭に何人かはハラハラしていたのだが、それも杞憂で。膝に乗りたいと言われれば抱き上げ、窓から身を乗り出す時は身体を支え、いろんな話をするに愛想良くとまではいかずとも全部ちゃんと言葉を返すなど「爆豪ってやっぱには甘いよな?」と聞こえぬところで話題になる程度には優しかった。



「かっちゃんおなまえかいて~!」
「誰のだよ」
「かっちゃん!」
「…おらよ」
「むつかしい…なんてよむの?」
「爆豪勝己」
「かつき?かっこいいおなまえだね」



「ねっ」と爆豪の方を見上げてにこにこと笑っているに隣から様子を伺っていた耳郎が机に突っ伏す。何故爆豪は一切表情を変えずにいられるのだろうか。いや彼がにやにやしていても怖いが。

この日の座学では結局爆豪からはなれることなく、はずっと彼の膝に座って大人しくしていた。勿論お昼ご飯でも一緒に行くというので切島、上鳴、瀬呂といつもの慣れた顔ぶれが同じテーブルに着いたのだが、でれでれに甘やかそうとする3人を爆豪が諫めしっかりご飯とデザートをバランスよく食べさせる姿は兄というか親というか。何にせよ存外面倒見は良いようだ。今も寮のソファに腰掛けて上に乗ってくるを黙って受け入れている。



「すっかり爆豪に懐いてんな」
ちゃん俺らとも仲良くして~」
「うん?でんきおにいちゃんもすきだよ!」
「カワイイ」
「はんたおにいちゃんもえいちゃんもすき!」
「カワイイそしてえいちゃん」
「ヤザワか?」
「ははっ鋭児郎って言いにくいみたいだなあ」



爆豪の肩越しから緑谷と飯田の姿を見つけたは、まだ話したことのない人が彼らと話しているのに気づきじっと見つめていた。すると視線に気づいたのかその人物がこちらを向くのでぴゃっと爆豪の胸元まで頭を下げ、またそろそろと顔を出す。



「かっちゃんかっちゃん」
「んだよ」
「あのおにいちゃんはなんてゆーの?」
「あ?……舐めプ野郎」
「なめぷ?」
「やめて爆豪」
ちゃんにそんな言葉教えないで」



自分の話をしているのかと轟がゆっくり近づいてきた。



「轟焦凍だ」
「……しょーとおにいちゃん?」
「ああ」



よろしくと頭を撫でる轟にはほんのり頬を染め小さく頷く。その傍で「触ってんじゃねえ舐めプ野郎」と爆豪が目を吊り上げるので、何故彼に言われなければいけないのかと首を傾げながら轟は素直に軽く手を振って緑谷たちのところへ戻った。その背中をぽーっと見送っているに上鳴と瀬呂はおやおや、と口角を上げる。



ちゃん顔が赤いですね?」
「しょーとおにいちゃん、おうじさまみたい~」
「おのれイケメン…」
「これが顔面格差社会」
「チッ」



がいるにも関わらず青筋を立てる爆発さん太郎に切島が慌てて彼女を呼んだ。



「爆豪は?かっこいいだろ?」
「かっちゃん?うんすごくかっこいいよ!」
「爆豪も王子様だよな?」
「かっちゃんはおーさま~!」
「おっ良かったな爆豪!」
「……余計な事言ってんじゃねーよ」



そう言いながらも悪い気はしていないようで落ち着きを取り戻す彼にほっと肩の力を抜く。よかった、被害が出る前に収まって。それにしても一言で機嫌を直せるの存在はすごいなと少女に尊敬の眼差しを送る切島たちであった。